[関連事件・毒ガス判決] 2004年7月10日(土)中国新聞
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強制連行西松訴訟
原告側が逆転勝訴
広島高裁賠償命令「時効 正義に反する」
戦時中、中国から強制連行され、広島県加計町安野の発電所で強制労働させられたとして、中国人元労働者と遺族の計五人が、工事を請け負っていた西松建設(当時西松組、東京都)に総額二千七百五十万円の損害賠償を求めた中国人強制連行「西松訴訟」の控訴審で、広島高裁の鈴木敏之裁判長は九日、原告の訴訟を退けた一審判決を取り消し、西松建設に全額訴訟を命じる原告側逆転訴訟判決を言い渡した。
中国人強制連行訴訟で高裁での原告訴訟は初めて。西松建設は直ちに上告した。原告は元労働者の宋継堯さん(75)と邵義誠さん(78)二人と、遺族の楊世斗さん(62)ら三人の計五人。
強制連行・労働について、鈴木裁判長は「粗末な食料しか支給されず、監督から暴行を受けるなどした」と西松建設の不法行為を認定した。しかし、二十年が経過すると損害賠償を求める権利がなくなる徐斥期間を適用し、不法行為については賠償責任を否定した。
一方で「西松建設は長時間、危険な労働に従事させた」として安全配慮義務違反による債務不履行があると認定。十年の時効により請求権は消滅したとして、消滅時効の成立を認めた。
しかし、消滅時効を適用するには「被告が時効を主張しなければならない」と定義した上で、被害者は帰国後も苦痛を強いられた。情報収集の困難さから請求権を行使するのは著しく困難だった」とした。さらに「西松建設が態度を明確にせず交渉を続け、結果的に原告らの提訴を遅らせた。損害賠償義務を免れることは著しく正義に反する」と指摘。「時効の主張は権利の乱用に当たる」として時効を適用せず、一人当たり五百五十万円の支払いを命じた。
新美隆原告側弁護団長は「長年にわたる西松側の不誠実な態度を裁判所も強調した。全面勝訴と言える」と話した。西松建設総務部は「食料の配給や賃金の支払いもし、強制連行、強制労働は無かったと確信する。全く納得いかない」とのコメントを発表した。
解決へ政治決断を
中国人強制連行「西松事件」で広島高裁は九日、損害賠償請求権の時効の適用を避け、損害賠償を命じた。企業の責任を明確に示した判断は、企業がせんごほ賞問題に正面から取り組む必要性を訴える。原告が高齢化する中、裁判による解決には限界がある。国は司法を超えた解決を図る道を模索するべきだ。
全国で十二件が提訴された中国人強制連行訴訟では、国や企業が加害行為を認定する流れができつつある。しかし、時効の適用については判断が揺れる中で、西松訴訟で損害賠償を認めた理由として広島高裁は、西松建設側が事実関係を明かにする努力を怠ったことを理由の一つに上げて、企業としての姿勢を厳しく批判した。
企業の説明責任が社会的に厳しく問われている。それは歴史問題についても同様だろう。被害企業は時効に逃げ込む道を選ぶのではなく、有利か不利かにかかわらず、誠実に過去の事実を明らかにする責任がある。
今回の判決は、国は被告になっていないものの、強制連行が国策に基づくことを明快に認定した。国境を越えた裁判に臨むことは、高齢化が進む原告らにとって重い負担となっている。西松訴訟でも原告五人のうち二人がなくなった。国は政治決断で、中国人強制連行問題を包括的に解決する道を切り開くべきだろう。
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西松訴訟判決骨子
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一、西松建設は原告の請求通り一人当たり五百五十万円の損害賠償を支払え
一、強制連行、強制労働は国策と企業の利潤追求という両者の利害が一致し、発生した
一、西松建設には、不十分な食事で長期にわたる危険な重労働をさせた安全配慮義務違反がある
一、西松建設の安全配慮義務の消滅時効援用は著しく正義に反し、許されない
一、西松建設の行為は強制連行、強制労働で不法行為と認める
一、不法行為に基づく損害賠償請求権は徐斥期間の経過により消滅した

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