《シリーズ・『裁かれる細菌戦』 vol.3_117ページ》






 疫学的研究では、ペスト流行の季節的消長、一般民家と患家との環境衛生の比較等を行い、伝染経路を解析し、ペスト流行にはペスト感染ネズミおよびノミが関与することを明らかにした。そして満州のペスト常在地域においては、人ペストの直接の伝染源となるのは「ドブネズミ」間の流行で、それを媒介するのは「ケオピスネズミノミ」が主であると述べ、ペストの流行にはペスト菌を保有するネズミが〇.五%以上になることが必要である、などと実戦を視野に入れたと思われる記述もある。農安の流行では有菌ネズミを検出し、ネズミの体にケオピスネズミノミおよびアニズスネズミノミが多数付着しているのを認めているが、ペスト菌が該地区に流入した経路は不明であったとしている。その上で、流行の季節的消長、ペスト菌の越年等の問題については、更に詳細な研究が必要であると指摘している。

二 ペスト菌の細菌学的研究

 一九四〇年の農安および新京におけるペスト流行の際には、多角的な細菌検索がなされている。ペスト菌の検出は患者材料からは勿論のこと、死者の解剖に当たって、腺ペスト、肺ペスト等の疾患別、各臓器別・部位別に材料が採取され、鏡検および培養による菌検索が実施されている。また、流行地域で捕獲されたネズミおよびノミからもペスト菌が分離されている。
 さらに、患者および死体から分離されたペスト菌七一株、流行地のネズミから分離されたペスト菌二九株、流行地のノミから分離されたペスト菌九株、シラミからのペスト菌一株、対照
 

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